春樹をめぐる冒険

yourou2006-03-25

舞踏会へ向かう三人の農夫

舞踏会へ向かう三人の農夫

東大駒場にて開催された村上春樹をめぐる国際的なシンポジウムに出席。目玉はなんといっても、基調講演のために来日したアメリカの作家リチャード・パワーズ(写真に写った赤丸内の人物。デカイです)。日本では、シンポを取り仕切った柴田元幸の訳による『舞踏会へ向かう三人の農夫』が代表作だが、例によって、買ったまま読んでいなかった。かつて読んだ友人から「スゴイ」との評だけは耳にしていたパワーズに接近したのは、おなじ柴田氏によって編まれた『柴田元幸と九人の作家たち』というインタビュー集を通して。主体と客体の双方向性(bi-directionarity)やピンチョンについて、彼の話す英語の美しさと誠実な語り口に魅了された。
当日、講演のタイトルは突飛で、「ハルキ・ムラカミ−世界共有−自己鏡像化−地下活用−ニューロサイエンス流−魂シェアリング計画」。たしか『ノルウェイの森』が出た頃に、イタリアで猿を使ったある実験が行われた、と切り出すパワーズ。猿の脳に電極を繋ぎ、別の端に電球を結びつけておく。猿が腕をふりあげると対応する脳内のニューロンが活性化して、電球が瞬く仕掛けになっている。このとき奇妙な出来事が起こった。猿が腕を動かしていないにもかかわらず、電球に光が灯ったのだという。猿は、実験室にいた科学者が腕をふりあげ、それを目にしただけだった。村上春樹の世界に一貫して認められるモチーフ、「他者と他者が繋がること」に輪郭を与えようとする試論。柴田さんは「有力な補助線が引かれた」とコメントしていた。
基調講演につづき、世界各地から集った村上作品の翻訳者たちによる意見交換会。アトラン(フランス)、コバレーニン(ロシア)、金春美(韓国)、頼明珠(台湾)、ルービン(アメリカ)の5人。内容はというと、正直なところ、日本の水準と照らしてみて、読み手としてのレベルの低さを感じざるを得なかった。「不思議」「幻想的」「シュール」「ユーモア」。時間がないとはいえ、解釈をよくある既成のキーワードに委ねてしまっている。村上春樹の描く世界はなぜ国境を超えて読者に訴えるのか。彼らの言葉(日本語)から、これといってヒントを見出すことができなかったのは、残念。