春樹をめぐる冒険
- 作者: リチャードパワーズ,Richard Powers,柴田元幸
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2000/04/14
- メディア: 単行本
- 購入: 7人 クリック: 59回
- この商品を含むブログ (76件) を見る
当日、講演のタイトルは突飛で、「ハルキ・ムラカミ−世界共有−自己鏡像化−地下活用−ニューロサイエンス流−魂シェアリング計画」。たしか『ノルウェイの森』が出た頃に、イタリアで猿を使ったある実験が行われた、と切り出すパワーズ。猿の脳に電極を繋ぎ、別の端に電球を結びつけておく。猿が腕をふりあげると対応する脳内のニューロンが活性化して、電球が瞬く仕掛けになっている。このとき奇妙な出来事が起こった。猿が腕を動かしていないにもかかわらず、電球に光が灯ったのだという。猿は、実験室にいた科学者が腕をふりあげ、それを目にしただけだった。村上春樹の世界に一貫して認められるモチーフ、「他者と他者が繋がること」に輪郭を与えようとする試論。柴田さんは「有力な補助線が引かれた」とコメントしていた。
基調講演につづき、世界各地から集った村上作品の翻訳者たちによる意見交換会。アトラン(フランス)、コバレーニン(ロシア)、金春美(韓国)、頼明珠(台湾)、ルービン(アメリカ)の5人。内容はというと、正直なところ、日本の水準と照らしてみて、読み手としてのレベルの低さを感じざるを得なかった。「不思議」「幻想的」「シュール」「ユーモア」。時間がないとはいえ、解釈をよくある既成のキーワードに委ねてしまっている。村上春樹の描く世界はなぜ国境を超えて読者に訴えるのか。彼らの言葉(日本語)から、これといってヒントを見出すことができなかったのは、残念。