スチュワーデスという仕事 2

離着陸時はいかなる理由があろうとも席を離れてはいけない。
乗客はみなシートベルトを着用し、リクライニングシートとテ
ーブルは元の位置に戻し、空いた座席に手荷物をおいていれば
シートベルトで押さえるか、前の座席の下にしまうこと。携帯
電話、パソコン、デジカメ、ウォークマンといったすべての電
子機器の電源をオフにすること。以上の指示をスチュワーデス
は機内放送を通じて発する。すべて乗客の安全を思ってのこと
であり、もっともな命令だ。乗客だけではない。乗務員もまた
離着陸の際には、専用のシートに着席して体をシートベルトで
固定して動かなくなる。離陸と着陸でそれぞれ40分ほど、この
あいだにかぎっては主役はパイロット。機内をちょっとした緊
張感が満たすわけだ。
 
とはいえ、ルールとは常に破られるもの。エンジン音に混ざっ
て、人々の鼓動すら聞こえてきそうな張り詰めた機内にあって、
突然、席を立つ者が現れることがある。
「お客様!席にお戻りください!」
すかさずスチュワーデスが絶叫する。
「いや、ちょっとトイレに・・・」
「席にお戻りください!」
「トイレ・・・」
頻繁に飛行機に乗っていると、この論争に立ち会うことがわり
とある。そして、私がスチュワーデスに不信感を抱くのもこの
ときなのである。「お客様!席について!危険ですから!席に
!席にい!」と便意よりも安全を優先するよう乗客に頑なに訴
えるスチュワーデス。だが、彼女たちはいつも叫ぶばかりで、
自ら席を離れて乗客の元へ駆け寄ろうとは決してしない。立た
ないのはまあいい。乗務員とて、身の安全を気遣うのは当然だ。
私が気になるのは、スチュワーデスの声量なのだ。何もあそこ
まで大声で注意することもないんじゃないかと思う。デパート
で鬼ごっこを始めた子供を叱る母親のように、授業中に私語を
やめない生徒を怒鳴る教師のように「お客様!お客様!」の大
合唱。食前、食中、食後と三度もドリンクを提供したスチュワ
ーデスが、乗客の尿意(便意)をあそこまで頭ごなしに否定し
ていいのか。そう思うと、「お客様!」の集中砲火にあって、
しおしおと席に戻っていく乗客の姿はたまらなく哀れであり、
同情せざるをえない。どうして「ぼく、我慢できないの?」と
一言やさしく声をかけられないのだろうか。機内での飲み過ぎ
には注意しましょう。