飛ぶ夢をしばらく見ない

飛ぶ夢をしばらく見ない (新潮文庫)

飛ぶ夢をしばらく見ない (新潮文庫)

夏の夕方の4時半といえばアジ釣り。
数年前までは、地元でそんな暮らしをしていた。
ある日、釣りをしているところへI宮さんがやってきた。
I宮さんは私が小学生の頃に通っていたスイミングスクール
でコーチをやっていた人であり、私は直接教えを受けたこと
はなかったけれども、父がI宮さんと仲がよく、父を通して
I宮さんは私のことを昔から知っていた。
当時はI宮さんのことを慣習で「I宮コーチ」と呼んでいた。
I宮コーチはトライアスロンをやっている超スポーツマン。
その日はランニングを終えたあとに、釣り人の様子を眺めに
やってきたようであった。
「あれえ、朦朧くん、お父さん元気?」
こう言いながら、I宮コーチは私の横に腰掛けた。
世間話をするうちに、I宮さんが意外にも読書家であると
いうことが分かった。そのときにオススメ本ということで
紹介してもらったのが、山田太一の『飛ぶ夢をしばらく見
ない』であった。
「最後の別れのシーンがいいんだよぉ」
そんなことを言っていたように思う。
数日後、古本屋で見つけたので買って、部屋に放っておいた。
本はそのまま読まれずに忘れ去られた。
先々週、台湾にもっていく本を部屋で探していると、本棚に
横倒しになってつぶれているこの本がたまたま目に止まり、
懐かしかったのでカバンに入れた。
そして一昨日、読み終わった。
ラストについては私はいいとも思わなかったが、全体にかなり
いやらしい内容で、悪くはなかった。
オススメ本でまず浮かぶのがこんなエロ小説だなんて、I宮コ
ーチは、本当にスケベだなと思った。