テレビの国にて

昨晩、米国の大学に昨夏から留学しているAちゃんに電話をかけてみた。
1コール鳴るや「.....Hello...」と眠たそうな声で応答があった。
名前を告げると
「ああ・・・こっち、まだ朝だよ」
「だろうねえ」
近況報告なぞしばらく情報交換したのち、Aちゃんが思い出したように
「あ、そういえば、ちょうど昨日、Tにヘッドフォンあげてみたよ」
と言った。
寮暮らしのAちゃんの部屋には、Tというハイチ出身の
ルームメイトがおり、その子に関して、ひとつ困ったことがあると
いう話を今年の夏、Aちゃんが夏期休暇で帰国した折に聞いた。
ブッシュ・ジュニアが財政政策ではじめに手を打ったのが、図書館
の予算削減だったというマイケル・ムーアの冗談もあるように、ア
メリカ人の大半は本をまったく読まない。それでは、家にいるとき
彼らは何をしているかといえば、テレビを見ているのである。
一日中。日が暮れるまで。いや、日が暮れたあとも寝るまでずっと。
で、Aちゃんは、Tのテレビ魔ぶりが悩みなのだという。
暇さえあれば、Tはとりあえずテレビを付ける。
二人部屋にテレビは一台。
防音できるしきりなど、あるはずもないから、音がうるさくて
うるさくて、勉強ができない。ちなみに、Tは勉強はしないのだそう。
「そんなにしょっちゅうテレビ付けて、いったいTは何をみてんの?」
「なんかホームドラマみたいなやつ。いっつも」
「そこまでうるさいなら、注意したらいいんじゃないの?」
「言えないよ」
「じゃあこうしなよ。次、アメリカに帰ったら、はい、これ日本のお土産
っていって、ヘッドファンを渡す」
「あはは、いいかもね。でもなー、こっちの意図も伝わらずに、
単純に喜ぶだけだろうなあ」
「むしろそのほうがいいじゃん」
そんな経緯があって、数日前にAちゃんは近所で実際にヘッドフォンを
購入し、策を講じたようなのだ。キレた、のだろう。
「はい、T、これあげる」
渡されたTは、その日以来、耳にヘッドフォンを装着して
ホームドラマを見つづけている、のだといいが・・・。